ビジネスや恋愛、人間関係など、多くの場面で行動心理学という言葉を耳にするようになりました。しぐさや表情、言葉の使い方でその人の心理を深く知ることができると話題になっています。
私自身カウンセラーとして大切にしていることですが、自分の過去の経験や知識だけでは他人を理解することはできません。自分の思い込みにとらわれずにひとの気持ちや考え方を知るには、専門的な研究の裏づけが重要です。その中でも行動心理学はとても役に立ちます。
この記事では、過去に多くの相談を受けてきたカウンセラーという視点から、行動心理学のなりたち、日常生活に役立つ理論、そしてオススメの本をご紹介します。
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ビジネス心理学とは?目次〜行動心理学でビジネス、恋愛、人間関係をもっと良好に〜
1.行動心理学とはなにか? 意味を解説
行動心理学とは、アメリカの心理学者であるジョン・ワトソンが1912年ごろに提唱した心理学です。彼はそれまでの心理学に反対し、人間の行動には原理原則があると提唱しました。
彼がこのような考えをもった背景には、「パブロフの犬」実験で知られるイワン・パブロフ(旧ソビエトの生理学者)からの影響があったとされています。
行動心理学では人間の行動のルールを追究しています。「あるしぐさをしたら、ある感情を抱いている」という風に、行動から人間の気持ちを理解するというアプローチがこれまでの心理学との違いです。ですから、行動心理学を学ぶことが、人間を知るのに役立つというわけですね。
2.仕事やマーケティングの効果を上げる行動心理5つ
それでは、この章では具体的な理論を扱っていきましょう。仕事の現場、とくに営業やマーケティングをされている方にとって、これらの知識は非常に役に立ちます。行動心理学の中でも重要な5つの理論をご紹介します。
2-1.返報性の原理
返報性の原理とは「良いことをされたら、自分もお返ししたくなる」という心理法則です。ひとは、自分に対して良いことをされると、自分も相手に良いことをしたくなるという特性があるのです。
たとえば、多くのビジネスでは商品の「無料プレゼント」というマーケティング手法をとっています。これも、返報性の原理を使用したもの。「こんなに良いものをもらったら、なんだか気がおさまらないなぁ」という心理状態にし、購入のきっかけを作るのですね。
「タダより高いモノはない」と、よく言われますよね。意味は「タダでなにかをもらうと、代わりにお礼をしたり、頼まれごとをされたりして実際より高く費用をはらうことになる」というもの。昔の人も返報性の原理を利用していたのですね。
2-2.バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、「多数の人間が選んでいるものに安心感を感じて、自分も選びやすくなる」という心理効果です。ある商品を購入するとき、とても有名なA社のものと、まったく無名のB社のものとでは、A社のほうに安心感・安定感を感じるため購買されやすくなります。
そもそもバンドワゴンという言葉の意味は「行列の一番先頭で楽器を鳴らす車」のこと。このことから、勝ち馬にのるとか、大衆の判断に身をゆだねるとか、時流にのるという意味で語られるようになりました。
よく「売上No.1」や「○○賞受賞!」という宣伝をみかけます。これも、バンドワゴン効果のひとつの方法です。多くの人が選んでいることをアピールすることで、より選ばれやすくなるのです。
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ビジネス心理学とは?2-3.スノッブ効果
スノッブ効果とは、「多数の人が選んでいるものを避けて選びたくなる」という心理効果です。バンドワゴン効果が安心感、安定感を求める効果ならば、こちらは自己顕示欲を満たすための効果になります。
スノッブという言葉の意味は「知識をひけらかす知ったかぶり」や「自分よりも上位の者に気に入られようとして、下位のものをあざける」というもの。イギリスの学生間で使われていた隠語とされています。
たとえば、栄養ドリンクは150~200円のものが多いですが、たまに1500~2000円のものもあります。これも、スノッブ効果を狙ったマーケティング手法。自己顕示欲を満たしたい人は、高額であっても珍しいものを選ぶようになります。
2-4.権威への服従
権威への服従とは「権威者の指示は、自分の考えとは違ったとしても実行してしまう」という心理効果です。これは1970年代にアメリカで行われたミルグラム実験が背景にあります。
その実験では、普通の市民が、権威者による命令で非道な行為をしてしまったのです。あまりにも非道な実験であったため、被験者のなかにはトラウマを抱えてしまった人もいました。
私たちの日常でも、たとえば病院に行ったとき、多くの人から先生と呼ばれる医師の言葉は、つい無条件に信用してしまいますね。しかし、権威者の主張がすべて正しいわけではないのです。
2-5.プロスペクト理論
プロスペクト理論とは「得をするよりも損を避けたい」という意思決定に関する法則です。これは、アメリカの心理学者であり、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが提唱しました。
そもそもプロスペクトという言葉の意味は、期待・予想・見通しというもの。それらの言葉から、よく宝くじと罰金の例で解説されます。たとえば、こんな風にです。
Q.質問です。あなたはどちらの宝くじを選びますか?
1.必ず20万円が当たる
2.70%の確率で25万円が当たるが、30%の確率で1円ももらえない
この場合、1を選ぶ人が多いかと思います。それでは、次の罰金の例はどうでしょう?
1.20万円の罰金を必ず支払わなければならない
2.70%の確率で25万円支払わなければならないが、30%の確率で1円も払わなくてよい
こうなると、2番を選ぶ人が多いかと思います。
利益が得られる場面では、リスクから逃れるように選択する。一方で、損をするかもしれない場面では、リスクを積極的に取ろうとする。これがプロスペクト理論です。
3.相手の性格や本音がわかる!恋愛に使える行動心理学5つ
特に恋愛では、相手がどう考えているのか知りたくなりますよね。異性の考え方や気持ちを理解するうえで、これらの心理効果を学ぶのは非常に役に立ちます。なぜなら、行動心理学は、しぐさや振る舞いから人の心理を読み解くことができる学問だからです。
この章では、恋愛にも有効な心理効果をご紹介します。
3-1.アイコンタクト
アイコンタクトとは、目と目で意思を伝えるコミュニケーションの方法です。昔から「目は口ほどにモノを言う」ということわざがあるように、相手の意志は言葉にしていなくても、目を見ればわかります。
1890年代、心理学者ウィリアム・ジェームズらは、眼球の動きと心のつながりを研究していました。そして1970年代にロバード・ディルツが、パターン化に成功。NLP(神経言語プログラミング)の世界では、アイ・アクセシング・キューというメソッドになっています。下記は、そのメソッドの図です。
(引用元:「マインドクラフト」)
- 相手の視線が「左上」に行ったときは「視覚的な想像」をしていて、
- 相手の視線が「右上」に行ったときは「過去の視覚的な記憶」を思い出しています。
- 相手の視線が「左水平」に行ったときは「聴覚的な想像」していて、
- 相手の視線が「右水平」に行ったときは「過去の音や言葉の記憶」を思い出しています。
- 相手の視線が「左下」に行ったときは「体の感覚」に注意を向けていて、
- 相手の視線が「右下」に行ったときは「心の中で会話」をしています。
たとえば、恋愛ドラマでよくあるワンシーン。「あなた、浮気したでしょ!」と詰め寄る女性に対して、「えーっと…」と目玉をキョロキョロさせる男性の姿。その時の相手の目をみれば、ウソをついているのか見極めることができます。
こういった姿も、行動心理学の知識で解説することができます。目の動きで相手の気持ちを読み解きたい!という方は、ぜひこのメソッドを学んでみると良いでしょう。
3-2.つりばし効果
つりばし効果とは「外的な刺激による緊張が、相手への恋愛感情だと錯覚してしまう」という心理効果です。これはとても有名なのでご存知かもしれません。いわゆる「恋のつりばし効果」という言葉でおなじみの理論ですね。
この理論を簡単にいうと、人間の情動・感情(喜び・悲しみ)は、生理的反応(できごと)とどう意味づけるかによって決まるというものです。
つまり、単純につりばしを一緒に渡るだけでは、恋に落ちる可能性は低いのです。恋愛に展開するためには、相手に「これは恋だ」という意味づけをさせる必要がありますので、つりばしを渡ることにロマンチックな意味を持たせることがポイントなのですね。
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ビジネス心理学とは?3-3.ハロー効果
ハロー効果とは、「一つの目立ちやすい特徴により、全体の評価がゆがめられる」というものです。
とくに、恋愛では良くも悪くも「見た目・容姿」でハロー効果が発揮されることが多くあります。たとえば、綺麗好きで清潔感がある人は、実際はそうでなくとも、性格もまじめで、誠実であるという印象を受けることがあります。
それとは逆に、部屋が汚れていて、台所に洗い物がたまっている人は、実際はそうでなくとも、性格はだらしなくて、自己管理ができないという印象を受けることがあります。これは、ハロー効果がマイナスに働いた例ですね。
3-4.初頭効果
初頭効果とは「最初に与えられた印象・情報が、その後のその人の評価に強く影響する」という心理効果です。簡単にいうと、その人の第一印象がそのあともずっと強く残るということです。
とくに、人間関係では第一印象は非常に重要です。元気に笑顔であいさつをして、清潔感のある健康的な容姿の人と、不機嫌そうな態度の人とでは、第一印象は大きく異なります。
仮に、両者が同じような失敗をして他人に迷惑をかけたとしても、周りの反応はかなり違ってきます。初対面の印象で、その後の付き合い方が変わるということをぜひ覚えておきましょう。
3-5.しぐさから異性の心を読む
お互い同性同士なら共感しやすい気持ちも、異性となるとまったくわからなくなってしまうことがあります。ここでは、日常生活での簡単なしぐさや、デート中によくあるしぐさから異性の気持ちを考えるヒントをお伝えします。
(1)会話の途中で鼻をさわるしぐさ
これは、隠しごとや嘘をついているときに多いしぐさです。自分の本心や欲求を隠すときに無意識に鼻を触るしぐさをします。恋愛の場面では、相手に自分の気持ち(好意)を知られたら恥ずかしいというサインとして使われることがあります。
(2)両腕を組むしぐさ
両腕を組むしぐさは、自己防衛や相手に流されたくないと考えているときに多いしぐさです。いわゆる拒絶を示す無意識のサインという見方もできます。腕を組んでいるという姿勢は、自分を守るという意図が感じられますね。
(3)よく目が合う
人間の本能には、好きなものを見つめる、気に入らないものから視線をはずすという特徴があります。そのため頻繁に見つめるしぐさは、好意があるときに多いしぐさです。1度だけならたまたまかもしれませんが、何度も続くようであればあなたに好意がある可能性が高いです。
(4)足を固く閉じて座るしぐさ
椅子に座るとき、その時の足の状態をみれば相手の心理がわかります。足が固く閉じられている場合は、一緒にいる人に対しての拒否、警戒、敵対心があるときに多いとされるしぐさです。
反対に、足が開かれているときは、相手に対する信頼や行為を表します。自宅で家族とリラックスしているときは、みなさんの足は開いていることが多いのではないでしょうか。
(5)髪を触るしぐさ
女性が好きな男性の前で髪をいじるのは、誰かに甘えたい、触れてほしいという気持ちがあるときに多くみられるしぐさとされています。ただし髪を触るしぐさには、恥ずかしさやさみしさ、退屈や不安など、様々な意味合いがあるため一概には言えません。相手の表情や雰囲気も含めて、相手の気持ちを判断しましょう。
(6)貧乏ゆすりのしぐさ
貧乏ゆすりをしている人を見ると、落ち着きがない、怒っているのかなという印象を受けますね。人が貧乏ゆすりをする時の心理状態は、イライラや緊張、欲求不満を感じている状態です。貧乏ゆすりをすることで、心に溜まった緊張や欲求不満を解消しようとしているのです。
相手が貧乏ゆすりをしていたら、どんなことに欲求不満を感じているのか考えてみると相手の心理が理解できるでしょう。
(7)頬杖(ほおづえ)をつくしぐさ
学生の頃、授業中に退屈だなあと感じたとき、ついつい頬杖をついてしまっていなかったでしょうか? 頬杖は、今の状態に欲求不満や退屈を感じているときに出やすいしぐさです。
ただしバーのカウンターで頬杖をつく女性を見かけたときは、男性は話しかけるチャンスと言えます。なぜならその人は、その状況に不満や退屈な感情を抱いている状態だからです。
(8)歩調を合わせるしぐさ
異性と一緒に歩いているとき、人によってはいつの間にか自分だけ先頭で歩いていることがあるのではないでしょうか? 歩調を合わせるというしぐさは、自分だけではなく周囲のことに配慮している必要があります。そのため相手の歩調に合わせる人は、協調性があって周囲に気配りができることが多い傾向があります。
(9)スマホをチラチラ気にするしぐさ
スマホはもはや日常生活に欠かせない存在となり、朝から晩までスマホをいじっている人も増えました。友人や恋人と一緒にいても頻繁にスマホをいじるしぐさは、その状況に退屈しているか、周囲の人間関係をとても気にしている人に多いしぐさです。
スマホは電話やライン、SNSなど周囲の人間とコミュニケーションをとるツールです。今ある人たちとの交流よりも、スマホの先にある人間関係の方を気にしている状態と言えます。
(10)耳たぶを触るしぐさ
耳たぶを触ることにより、特に女性は心地よさや安心感を得られます。もしあなたの会話中に女性が耳たぶを触っていたら、残念ながら話の内容に退屈さを感じている状態といえます。なぜならつまらない気分を紛らわせるために、耳たぶを触ることで自分の気持ちをなだめているのです。
4.行動心理学のオススメ本5冊
『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』
ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)
この本は特に、恋愛やコミュニケーションツールとして行動心理学を学びたい方向けです。各ページにはふんだんに写真があり、しぐさが感情・気持ちをどのように表現しているのかを解説されていますので、文字だけでなくビジュアルでも学ぶことができます。
そしてなによりも過去25年にわたってFBIで特別捜査官を務めた、行動心理学の実践におけるプロ中のプロである著者が、恋愛や人間関係の場で使える知識を教えてくれています。細やかなしぐさの裏に、どのような心理が隠されているのか。ぜひこの本で研究してみてください。
『影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか』
ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳)
こちらの本は、営業やマーケティングの仕事をしている方に強くおすすめの一冊。この記事でもご紹介した返報性の原理や権威について、より深く、くわしく学ぶことができます。もし行動心理学に興味が湧いたのであればぜひ手に取っていただきたい本です。
とくに仕事の場で業績を上げたい方には強くおすすめです。この本に書かれている行動心理学の具体的なメソッドは長年多くの経営者、ビジネスマンに読まれ続けてきました。ぜひ手に取って学んでみてください。
『とっさのしぐさで本音を見抜く』
トルステン・ハーフェナー (著), 柴田さとみ (翻訳)
著者はマジシャンでもあり、テレビ・ラジオ出演やマインド・リーダーとしてステージショーも行う人気の高いメンタリスト。この本は、表情や身体の動きに現れる感情シグナルを読み取る「ボディ・リーディング」について書かれた本です。人間は、言葉ではウソをつけても、動作には本音が出てしまうものです。
仕事だけでなく、恋愛その他人間関係にも幅広く活用できる一冊です。
『現代広告の心理技術101』
ドルー・エリック・ホイットマン (著)
モノが溢れている時代に、自社の商品(サービス含む)を買ってもらう。そのために、実は広告の役割はとても重要です。お客さんに「お財布を開けてお金を支払う」という行動をしてもらうためには、先にお客さんの心を動かさなくてはいけません。この本には、消費者心理を研究した上で、効果実証済みの広告テクニックが数多く紹介されています。
セールス・マーケティングに悩んでいる経営者の方は、必ず読むべき本と言えるでしょう。
『愛するということ』
エーリッヒ・フロム (著), Erich Fromm (原著)
こちらの本は世界的なベストセラーであり、あなたももしかしたら、書籍の名前を聞いたことがあるかもしれません。
人を動かす秘訣を学びたいなら、100冊のマネジメント本を読むより、このフロムの名著を読むといい
(土井英司)
ビジネス書評家として有名な土井氏の言葉です。ビジネス書ではないので、時間をかけてじっくりと味わうように、ていねいに何度も読む価値のある本です。人間関係に悩む全ての方におすすめします。
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ビジネス心理学とは?5.行動心理学で望む結果を得よう
もしもあなたがいま、仕事や恋愛の場で、いまよりも違った結果を手に入れたいとお悩みであれば、ぜひ行動心理学を学んでみましょう。行動心理学を学ぶことで、これまでとは違うアプローチで他人を理解でき、望む結果が得られるはずです。
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