あなたは「ラポール」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。とはいえ、知っている人は知っている。「ラポールを築こう!」とか、「ラポールがこわれた〜〜〜〜!」などという会話は、心理職にたずさわっている人の間では日常茶飯事です。
ですが、この記事ではラポールについて、くわしく知らないあなたのために書きあげました。元プロのコーチとして、400人の方にラポール形成の方法をお伝えしてきたわたしが、ラポールについてわかりやすく解説します。
記事をすべて読んでいただければ、ラポールの意味や、ラポール形成の仕方についてくわしくなれるでしょう。コミュニケーションもグン!とうまくなりますから、期待して読みすすめてください。
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ビジネス心理学とは?目次 〜ラポール形成とは|元コーチが語る信頼を築く秘訣~
- 2-1.ラポール形成の技術|ミラーリング・ペーシング
- 2-2.ラポール形成の技術|リーディング
- 2-3.ラポール形成の技術|バックトラッキング
- 2-4.ラポール形成の技術|キャリブレーション
- 2-5.ラポール形成の技術|ホメオスタシス同調
1. ラポール形成とは?|ラポールの意味とつかい方を解説
この章を読んでいただくだけで、ラポールの全体像がつかめます。次章以降で解説する内容のキホンですので、しっかり理解してくださいね。
1-1. ラポールとは?
ラポールとは、200年前からつかわれているフランスの言葉です。直訳は「かけ橋」。臨床心理学の分野でつかわれはじめ、もともとはカウンセラーとカウンセリングを受ける人との人間関係で、信頼関係や安心できるつながりのことをさします。
ラポール形成とは、言葉の通り、相手との間に「ラポール」を形成すること。言い換えれば、信頼関係を築くこと、安心できるつながりを作ることです。
最近ではカウンセリングの現場だけでなく、営業や恋愛、看護といった一般的な人間関係でも、「ココロが通いあっている」といった意味でつかわれています。日本では、NLPの普及とともに広がっていったようです。
NLPとは? 以下の記事に、くわしい解説があります。
1-2. ラポール形成はカウンセリング以外の場でもつかえる
ラポールはカウンセリングやコーチング、介護などの心理・福祉・医療職、さらに営業の現場などでよくつかわれます。最近では、心理学やコミュニケーションに関連した本やブログなどで扱われることが増え、広い層にも知られるようになってきました。
ラポールを形成できるようになると、恋愛の場面では狙っている異性をゲットできる確率が上がったり、仕事でビジネスパートナーやお客さんの信頼を勝ちとったりと、さまざまな場面で役立てることができます。
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ビジネス心理学とは?2. ラポール形成には初期段階が大切!
コミュニケーションでは、「第一印象が大切!」と聞いたことがありませんか? そのとおりなのです。ポーランドの心理学者である、ソロモン・アッシュが1946年に行った実験により「初頭効果」という、第一印象についての影響が明らかになりました。
ですので、人間関係を築くときも、出会いの初期段階でしっかりした関係を築くことができれば、良い付き合いを長く続けることができるということですね。
この章では、ラポール形成のためにつかえるコミュニケーション術の中から、特におすすめしたい5つの技術を伝授いたします。オバマ大統領も、レディ・ガガも、一流の営業マンも、以下のような技術をつかって、多くの人々のココロをとらえています。
2-1. ラポール形成の技術|ミラーリング・ペーシング
最初におすすめしたいラポール形成の技術は、ミラーリングとペーシングです。
ミラーリングとは、相手のしぐさなど視覚的な情報を鏡のようにあわせていく技術です。ペーシングとは、相手の声の大きさやトーンなど聴覚的な情報をあわせていく技術です。
具体的には相手が息を吸っているときに同じように息を吸い、吐いているときに同じように吐くのです。または、相手が右膝を上にして足を組んでいたら、同じようにあなたも組みます。相手と会話しているときに、質問によって相手のことを聞き出して、共通の趣味をみつける、ということもします。
ミラーリング・ペーシングを続けることによって、だんだんと相手とココロのペースがあってきて、「なんだかこの人といると落ち着けるな……」とか、「この人とはウマがあう!」と感じてもらえるようになってきます。
2-2. ラポール形成の技術|リーディング
次におすすめする技術はリーディングです。
ミラーリング・ペーシングによって、相手とのリズムがあってきたら、次はリーディングという技術をつかうと、より生産的な関係を築くことができるようになります。
リーディングとは、相手をあなたのペースにあわせるように、意図的に働きかけるものです。コーチングの現場でつかわれる、基本的な技術です。
リーディングのやり方は次の通り。
まずステートを理解します。ステートとは、わかりやすく言うとメンタルの状態のこと。たとえば、人前に立ってドキドキしているときと、部屋でひとりで落ち込んでいるとき、友だちとバカ話をして笑っているときでは、メンタルの状態はまったく違うでしょう。
次に、あなたの今のステートを計測します。計測とは、ステートを0点から10点の中で点数をつけるのです。たとえば、ものすごい気分が高揚しているとか、ものすごくうれしいという状態が10点、どうしようもなく落ち込んでいたり、絶望している状態を0点とします。何点くらいでしょうか?
最後に、ステートを相手より「プラス1点」の状態にたもちます。この状態でコミュニケーションを続けると、だんだんと相手のペースはあなたにあってくるでしょう。
2-3. ラポール形成の技術|バックトラッキング
次におすすめしたい技術はバックトラッキングです。
バックトラッキングとは、あまり耳馴れない言葉かもしれませんが、「オウム返し」と同義で、相手の言った言葉を返すことをさします。
たとえば、「今日はとても暑くて大変だったんですよ」と相手が言ったなら、「大変だったんですね」と返す。「今週はずっと図書館で勉強していたんですよ」と言ったなら、「ずっと勉強されていたんですね。」と返す。
ただ相手の言った言葉を、そのままを返すというよりは、相手が話した言葉の中から、感情的な表現や最後の方に出てきた言葉などを拾って返してあげることがポイントです。
これを会話の中で何度か挟むうちに、だんだんと相手とのリズムがあってくるのを感じることができるでしょう。相手は、自分のことを理解してもらっている、自分は受け入れられているという感覚をもつようになり、ラポールを形成しやすくなります。
2-4. ラポール形成の技術|キャリブレーション
ラポール形成の技術4つ目はキャリブレーションです。
キャリブレーションとは、言葉以外のサインを観察することで、相手の心の状態を認識するための技術です。言葉以外のサインとは、相手の視線、眼球の動き、呼吸、声の大きさ・リズム・トーン、ジェスチャー、姿勢などをさします。
ポイントは、自分の経験や先入観、主観を捨てて読み取ること。
自分の主観的な考えが入り込む隙がないように、相手をとにかく観察することが大事です。
例えば、口では「楽しいです」と言っていても、視線が下を向いていたり声のトーンが沈んだりしている場合は、相手が緊張していたり無理をしたりしている可能性があります。
それに気づいて、アイスブレイクをはさんだり、緊張しなくて大丈夫ですよと声をかけたりすることで、相手の実際の状況を踏まえたコミュニケーションをとることができます。
そのなにげない声かけで緊張が和らいだり、一息つくことができたら、相手もそのあとの会話が進めやすくなりますよね。グッとラポールを形成しやすくなるのが想像できるのではないでしょうか。
また、ここまでに紹介してきたミラーリング、ペーシング、リーディング、バックトラッキングを自然に行うためにも、相手を観察するこのキャリブレーションという技術は重要になってきます。
2-5. ラポール形成の技術|ホメオスタシス同調
最後におすすめしたい5つ目の技術は、ホメオスタシス同調です。少しムズカシイ方法ですが、役に立つ情報ですのでご紹介いたします。
ホメオスタシスとは日本語では「恒常性維持」。たとえば、わたしたちは暑ければ毛穴が開いて汗をかき、寒ければ毛穴がしまって鳥肌になりますよね? これは、ホメオスタシスの機能で、周りの環境に自分のカラダをあわせるというものです。
わたしたちのココロにも、同じような原則があります。たとえば、チームで1つの目標に向かうとき、「絶対デキる!」と考えている人ばかりが所属するチームにいると、どんなにあなたがネガティブな性格でも、だんだんと達成できる気がしてきます。
逆に、どんなにあなたが前向きで意欲的でも、「絶対ムリじゃない?」という考えの人がチームに多ければ、だんだん「ムリかもな……」と、考えるようになってしまいます。
1対1の人間関係では、わかりやすいのが「確信」という感情。確信が強いほうが影響力をもちます。
具体的には、恋愛で告白するシーン。「キミのことが好きだ!!!!!」とものすごく強い確信をもって伝えられると、これまではそれほど相手に興味をもっていなかったとしても、ホメオスタシス同調によって、相手に影響されて「そんなにわたしのこと好きなんだ……なんかいいかも?」と、以前よりも相手のことが気になってしまう、ということがあります。
ただし、ムリヤリ好きにさせることはできませんから、つかい方には気をつけてください。5章に失敗談がありますので、読んで同じ失敗をしないようにしましょう。
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ビジネス心理学とは?3. ラポール形成の3ステップ|仕事や恋愛で実践する方法
この章では、営業、恋愛、看護、カウンセリングなど具体的な現場でもつかえるラポールの形成方法をお伝えします。しっかり実践して成果を上げてくださいね!
3-1. 仕事・恋愛でのラポール形成ステップ1|自己開示
営業・恋愛・カウンセリング・看護のラポール形成ステップ1は、自己開示です。自己開示とは、自分のことを相手に伝えることです。単なる自己紹介でもよいのですが、ここでは効果的な自己開示の方法のひとつを紹介します。営業マンがよくつかうテクニックでもあります。
あらかじめ自分の人生を、3分程度で話せるようにまとめておくのです。次のようなポイントが入っていると良いです。
- どんなことをやってきたのか?
- どんなものを好きになったのか?
- 今後どんなことをやりたいと考えているのか?
人生全体を相手に伝えるので、相手に「この人はこういう人なんだ」ということが、よりはっきりと伝わって、相手に理解されやすくなります。
考えみてください。わたしたちは通常、時間をかけて相手を知っていくからこそ、他人と仲良くなっていくもの。逆に考えると、時間をかけなくても相手に自分を知ってもらうことができれば、短い時間で仲良くなることがデキるというわけです。
3-2. 仕事・恋愛でのラポール形成ステップ2|傾聴
営業・恋愛・カウンセリング・看護のラポール形成ステップ2は、傾聴です。傾聴とは、「耳」「目」「ココロ」で相手の話を真摯な姿勢で聴くことです。
「人の話をよく聞きなさい!」あなたも小さいころに、親に注意された覚えがあるかもしれません。この言葉は、ラポール形成には金言です。わたしたちは誰でも、「人に話を聞いて欲しい」という欲求があります。ですので、自分の話を聞いてくれる人には、自然と好意や信頼を感じやすいのです。
恋愛でしたら、自分ばかり延々と話していたら相手は退屈してくるでしょう。営業や看護、介護の現場でも、ココロをなかなかひらいてくれないお客さまがいたとき、ねばり強く相手の話を聞いて理解しようとする姿勢は効果的です。
傾聴とは、ココロを込めて相手の話に耳を傾けること。傾聴のスキルを実践すると、仕事の幅が広がるのはもちろん、お客さまの人生にもより良い変化を与えます。傾聴についてはこちらの記事でくわしくお伝えしているので、ぜひ読んでみてください。
わたしたちのコミュニケーションは、相手を理解することができれば9割は成功です。もちろん、いつもいつも話を聞いているだけで、相手を完全に理解することはムズカシイでしょう。しかしながら、態度に示すだけでも信頼を得られることは珍しいことではありません。チャレンジ!
3-3. 仕事・恋愛でのラポール形成ステップ3|マッチング
営業・恋愛・カウンセリング・看護のラポール形成ステップ3は、マッチングです。マッチングとは、ミラーリングやペーシングと同じような方法で、マッチングという技術があります。
具体的には話し方をマネます。たとえば、相手が早口ならあなたも早口で話し、ゆっくり話す人ならあなたもゆっくりと相手と同じペースで話します。
相手が方言を話す人なら、あなたも相手の話す方言を覚えたほうが、信頼関係をつくりやすいということです。とはいえ、方言は下手につかうと相手から「不自然」と思われることもありますので、じっくり研究が必要です(笑)。
恋愛でも、「出身地が同じで、お互い方言で話せるので関係が一気に急接近した!」という話はよく聞きますよね。介護の現場でも、同様です。機会を見てトライしてみましょう。
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ビジネス心理学とは?4. ラポール形成がうまくなるオススメの本を紹介します
この章では、ラポール形成に役立つオススメの本をご紹介いたしますね。わかりやすく、本質に触れられるモノを選びましたので、何度も読み返してください。ラポール形成のコツがつかめると思います。
4-1. ラポール形成がうまくなるオススメの本 その1
『 雑談の一流、二流、三流 』
桐生 稔 (著)
ラポール形成がうまくなるオススメの本 その1は、桐生 稔 著『雑談の一流、二流、三流』です。
営業成績の悪さに新卒入社3カ月で地方に左遷されたところからスタートし、スクールを運営するほどのコミュニケーションのエキスパートとなった著者が、人の心を動かすのは、「どんなことを伝えるか」より「相手とどんな関係性にあるか」だと訴えかけます。
「雑談」がテーマの本で、「ラポール」という言葉こそ出てきませんが、相手と信頼関係を築くとはどういうことか、よく理解していただけると思います。
4-2. ラポール形成がうまくなるオススメの本 その2
『人を動かす』
デール カーネギー (著), Dale Carnegie (著), 山口 博 (著)
ラポール形成がうまくなるオススメの本 その2は、デール カーネギー (著)『人を動かす』です。出版から80年ほどたっても色あせない、コミュニケーション術の名著です。
全世界では1500万部、日本国内でも430万部売り上げているロングセラーですね。著者のデール・カーネギーは、対人スキルや自己啓発の講師・プログラム開発者で、本書の他に「道は開ける」という名著も残しています。
本書を読めば他人はどういうことを求めていて、あなたがどのように自分のコミュニケーションを変えていけばいいのか、1つ1つ事例を交えながら理解をすすめることができます。
デール・カーネギーとその著書について、くわしく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。時の経過による風化にたえてきた良書は、あなたのラポール形成のチカラを飛躍的に伸ばすお手伝いをしてくれるでしょう。
5. ラポール形成にまつわる体験談を暴露します
ここまでは、ラポール形成の理論的なことを中心にお話をしてきました。この章では、ラポール形成の成功談や失敗談を、つつみ隠さずにご紹介いたします。成功と失敗の例を同時に知ることで、あなたがラポール形成を実践する際に、「やったほうがいいこと」と「やってはいけないこと」をあらかじめ理解することができます。
5-1. ラポール形成に成功しました!
わたしが、かつてお世話になっていた経営者の成功談です。その方は、わたしからみると「ラポール形成の鉄人」。誰からも好かれますし、誰にでもあたたかく、出会った人がみなファンになるような方でした。
その方がよくつかっていた技術が、「人をほめる」ということ。しかしながら、ただほめるだけではないのです。以下のステップで、相手が心地よくなるようにほめます。
1.会ってはじめの段階で相手のいいところを探します
2.相手のいいところをほめます
3.さらに、相手のいいところに関しての質問をします
たとえば次のような具合です。
1.「相手がステキなスカーフをしている」ということに気づく
2.「そのスカーフ、色合いが◯◯さんにあっていてステキですね」などとほめる
3.さらに、「どこのブランドなんですか?」というように深掘りして質問する
このステップを踏むことで、相手は「本当に自分のいいところに興味を示してくれているんだな」とうれしい気持ちになるでしょう。
5-2. ラポール形成に失敗しました……
お次は、失敗談。わたしの女性の友人のお話です。彼女は、わたしの男性の友人に片思いでした。二人でデートに行けるタイミングをなかなか作ることができないというので、わたしが食事の機会をセッティングしたのです。
彼女はNLPを学んだことがあり、ミラーリングやマッチングなどの知識をもっていました。そこで、彼女が食事の際、どんな行動に出たかというと……片思いの彼の行動を「すべて」マネていたのです!
彼が足を組むと彼女も同じ足を組み、ドリンクを飲むと同じタイミングでドリンクを飲み、彼が「◯◯なんだ」と発言すると、彼女も「◯◯なのね」とオウム返しのように繰り返す……あまりにも毎回繰り返すので、彼も会話が不自然なことに気づき、あとでこっそり「いちいちマネされんだけど!」とわたしにもらしていました(汗)。
ラポール形成の技術は、コミュニケーションの中に、アクセントのようにそえることで効果を発揮するものです。やりすぎにはご注意!
初めて当サイトに訪れた方へ
ビジネス心理学とは?6. ラポールはスキルじゃない、ハートだよ!
前章の失敗談にもあるようにラポール形成の技術は、あなたのコミュニケーションをサポートしてくれるものに過ぎません。技術に頼りすぎていると、逆にコミュニケーションがうまくいかない、ということにもなりかねないのです。
ラポール形成でキホンになるのは技術以上に、あなたの人柄……つまり、「ハート」です。そして、人柄はあなたの性格を変えていくことでより良いものにしていくことができます。そう、性格は変えられるのです!
では、どうやって性格を変えるのか? その答えは心理学にあります。それも、研究機関で予算を組まれて研究されているような心理学です。まずは、以下の記事で心理学について正しく理解してください。あなたがラポールマスターになるために役立つ情報満載です。グッドラック!
もしあなたが対話によって相手の行動をうながしたり、もっとうまく他人とコミュニケーションできるようになりたいと考えているなら以下の記事も参考になると思います。この記事ではプロのコーチが、なぜコーチングが効果を発揮するのかを具体的にお伝えします。この記事を読めば、コーチングのスキルを職場などで活用できるようになります。