10分で分かるブルー・オーシャン戦略のすべて|事例と要約

あなたは「ブルー・オーシャン戦略」という言葉を聞いたことはありますか? 競争が激しくて血まみれの海(レッドオーシャン=競争が多い市場)ではなくて、競争のない青い海(ブルー・オーシャン=競争がない市場)を見つけよう、という戦略です。

では、どうすればブルー・オーシャンを見つけられるのでしょうか? また、ブルー・オーシャン戦略でうまくいったはずの企業の業績が、なぜ低迷しはじめるのでしょうか?(これを知らないと、ビジネスは失敗します)

この記事ではマーケティングコンサルタントの私が、ブルー・オーシャン戦略の意味はもちろん、事例や批判などもご紹介します。これを読めば、ブルー・オーシャン戦略について体系的に理解でき、ビジネスの失敗も防げるでしょう。

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目次 〜ブルー・オーシャン戦略のすべて|事例と要約〜

1.ブルー・オーシャン戦略とは何か? 意味を解説

2.ブルー・オーシャン戦略のメリットとおすすめの企業

3.ブルー・オーシャン戦略の事例と批判

4.ブルー・オーシャンだけでは不十分

1.ブルー・オーシャン戦略とは何か? 意味を解説

ブルー・オーシャン戦略とは何か? 意味を解説

ブルー・オーシャン戦略とは、フランスの大学院INSEAD(インシアード)の教授である、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱する戦略です。

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する
 W・チャン・キム (著), レネ・モボルニュ (著), 有賀 裕子 (翻訳)

このブルー・オーシャン戦略は、簡単に言うと「新市場開拓戦略」のことです。

この本の第一部で説明されている例は「シルク・ドゥ・ソレイユ」。斜陽産業だったサーカス業界で、シルク・ドゥ・ソレイユだけは大きく成長することができました。その理由は、3つあります。

シルク・ドゥ・ソレイユが成長した3つの理由

1.出演料が高いスターを雇わず、テーマ性で集客した
2.ゾウなどの動物を使わず、人間だけでショーを行った
3.子ども向けではなく、大人向けのサーカスにした

この1と2によってコストを下げられ、3によって高単価なビジネスになったのです。

また、3に書いたように、既存のサーカスは子ども向けですが、「シルク・ドゥ・ソレイユ」だけは大人向け。競争のない新市場(ブルー・オーシャン)に行くことができた、というわけです。

1-1.ブルー・オーシャン戦略の概要

このブルー・オーシャン戦略のキモを一言で表すと、バリューイノベーションです。難しいので、この用語は覚えなくていいので、下の図をご覧ください。

バリューイノベーションとは、コストを下げつつ、価値を高めること

バリューイノベーションとは、コストを下げつつ、価値を高めること

引用:『ジャイロ総合コンサルティング

シルク・ドゥ・ソレイユの例を思い出してください。スターを雇わなかったり、動物を使わなかったりしたのは、コストを下げる取り組みです(図の上部の逆三角形)。一方で、大人が好むようなテーマ性の高い演出は、価値を高める取り組みです(図の下部の三角形)。

この2つを同時に行って、シルク・ドゥ・ソレイユは競争だらけのレッドオーシャン(競争が激しいサーカス業界)から離れた、というわけです。

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1-2.ブルー・オーシャン戦略のフレームワーク

ここまで読んでいただくと、こんな疑問が頭に浮かびませんか? 「たしかに、コストを下げながら、価値を高められたらスゴいけれど、一体どうすればいいんだ?」

おっしゃる通り。その方法として、いくつかのフレームワーク(考えるための枠組み)が『ブルー・オーシャン戦略』では用意されています。ここでは、その中でも有名なアクション・マトリクスという概念をご紹介しましょう。

これは、自分の業界に対して、何かを「取り除く」、「減らす」、「増やす」、「付け加える」をおこなってみる、というものです。シルク・ドゥ・ソレイユの場合はこのように、サーカス業界に対しておこないました。

アクション・マトリクス:シルク・ドゥ・ソレイユの事例

取り除く

  • 花形パフォーマー
  • 動物によるショー
  • 館内でのグッズ販売
  • 隣接するいくつもの舞台での同時ショー
増やす

  • 個性あふれる独自のテント
減らす

  • 笑いとユーモア
  • 危険やスリル
付け加える

  • テーマ性
  • 洗練された環境
  • 複数の演目
  • 芸術性の高い言葉とダンス

ブルー・オーシャン戦略』 60ページより引用

いきなり、コストを下げながら価値を高める妙案を考えるのは難しいですが、この「取り除く」、「減らす」、「増やす」、「付け加える」の4つの視点で考えてみると、思いつきやすいと思います。

また、具体的な他の事例も2つ後述するので、参考にしてみてください。

2.ブルー・オーシャン戦略のメリットとおすすめの企業

ブルー・オーシャン戦略のメリットとおすすめの企業

ここまでお読みいただければわかる通り、ブルー・オーシャン戦略というのは、なんとなく競争を避けるだけの方法ではありません。

頭に汗をかいて、「どうしたらコストを下げながら、価値を高められるか」を色々な角度から考え続けることが必要です。大学院でビジネスを学ぶような、知的にマッチョな人でないと、これはなか大変な作業でしょう。

そこで、この章では、ブルー・オーシャン戦略がおすすめの企業/おすすめでない企業と、ブルー・オーシャン戦略のメリット/デメリットを解説します。少なくとも、全ての企業でブルー・オーシャン戦略を取り入れる必要はありません。

2-1.ブルー・オーシャン戦略がおすすめの企業とそうでない企業

ブルー・オーシャン戦略というのは、競争が激しい業界から離れて新市場を作り出すための戦略です。ですので、おすすめの企業は、競争が激しい業界です。競争が激しくない業界の場合、そもそも新市場なんて開拓しなくても、十分に利益を出せるからです。

また、おすすめでない企業は、経営者がマーケティングやセールスを学んでいない中小企業や個人事業主です。新市場を開拓したところで、売るスキルを持っていない企業は、結局売れません。

お客さんを魚にたとえるのは気分が良くないのですが、分かりやすいのであえてこのたとえを使います。申しわけないです。他の釣り人がいっぱいいる池でも、釣るスキルがある人は、他の人の何倍も釣ります。ですが、釣るスキルが全然ない人は、自分1人しかいない釣り堀でも、全然釣れません。

ブルー・オーシャンさえ見つければうまくいく、というのは幻想です。いくら新市場(自分1人しかいない釣り堀)であっても、売るスキル(釣るスキル)がない人は売れない(釣れない)のです。

※『ブルー・オーシャン戦略』の本の中にも、レッドオーシャンの中でビジネスをする必要があることが書かれています。

2-2.ブルー・オーシャン戦略のメリットとデメリット

ブルー・オーシャン戦略のメリットは、ここまで書いてきたとおり、低コスト、高単価でビジネスができるということ。いいことずくめ……のように感じるかもしれませんが、デメリットもあります。

当たり前ですが、そんな良い新市場があるなら、みんなマネして参入してきますよね? 競合他社だって、レッドオーシャンにいたくありませんから。ブルー・オーシャンは、見つけたら安泰というわけではなく、すぐにマネされます。『ブルー・オーシャン戦略』の本の第9章には、このように書かれています。

ブルー・オーシャンはすぐにマネされる

ブルー・オーシャンは一度創造すればそれで終わりではない。その後もたゆまずに努力を続けていかなくてはならない。ブルー・オーシャンが誕生して目覚ましい業績をもたらしたなら、模倣者が現れるのは時間の問題だろう。

ブルー・オーシャン戦略』 242ページより引用

繰り返しになりますが、ブルー・オーシャン戦略というのは「新市場開拓戦略」です。参入障壁を高める戦略でもなければ、無競争状態を作り出す戦略でもありません。

つまり、まだ競争がない市場を探す戦略であり、それ以上でもそれ以下でもないのです。

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3.ブルー・オーシャン戦略の事例と批判

ブルー・オーシャン戦略の事例と批判

さて、この章では、ブルー・オーシャン戦略の事例を2つ、みていきましょう。

3-1.事例1:10分1000円カットのQBハウス

あなたは、10分1000円(税抜)で散髪ができるQBハウスをご存知でしょうか? 47都道府県のうち、半分ほどに出店している床屋チェーンです。この床屋の特徴は、カットしかできないこと。

普通の床屋や美容院は、カラーリングやシャンプー、パーマなどができますよね? ですが、QBハウスは、洗面台もドライヤーも「存在しない」ので、それらができないのです。

QBハウスは、お客さんが席につくと、髪を洗うことなくいきなり切り始めます。切り終わったら、洗面台で頭を洗わず、掃除機のような機械で切った髪を吸い取るだけ。なのでたった10分で切り終えることができるのです。

アクション・マトリクス:QBハウスの事例

取り除く

  • カラーリング
  • シャンプー
  • パーマ
増やす

  • クシやハサミを消毒する機械
減らす

  • 理容師との会話
付け加える

  • 髪を吸い取る掃除機

まず、お店を作るときに洗面台を作る必要がなくて低コスト。しかも、10分で1000円ということは1時間あたり6000円の売上です。普通の床屋が1時間で3000〜4000円くらいかかることを考えると、普通の床屋よりも高単価になりますよね。

こうして、コストを下げながら、高単価を実現しているのです。

3-2.事例2:Wiiが大ヒットした任天堂

少し前にはやった、任天堂のWii(ウィー)というゲーム機を覚えていますか? Wiiの開発スタッフは『ブルー・オーシャン戦略』の本を読み込み、あのゲーム機を作ったことで知られています。

任天堂はWiiを出す前、ソニーの「プレイステーション」シリーズなどのゲーム機との激しい競争に巻き込まれていました。そこで任天堂は、「子どもだけではなく、色々な世代に売れるゲーム機を作ろう」と考え、操作しやすいWiiリモコンを開発しました。

そして、Wiiリモコンで遊ぶためのテニスやゴルフのゲームも販売。その結果はご存知のとおりです。Wiiは大ヒットして、なんと従業員1人当たり1億2000万円もの純利益を稼ぎ出したのです。

アクション・マトリクス:Wiiの事例

取り除く

  • ハードディスク
  • DVDを見る機能
増やす

  • 直感的な操作
減らす

  • 画質の良さ
付け加える

  • 誰でも操作がしやすいWiiリモコン

任天堂は、画質などよりも「Wiiリモコンを使った、今までにない体験ができるゲーム」にこだわっていました。また、Wiiの性能は、当時の競合機種と比べて低くしたため、製造コストは低くおさえられました。

そのため、低コストで高付加価値を実現できたのです。

3-3.ブルー・オーシャン戦略への批判

インターネットでブルー・オーシャン戦略について検索すると、この戦略について批判をしている人もいるようです。その理由は前述した任天堂の業績が低迷してきているからのようです。

任天堂の業績が低迷したひとつの理由は、スマートフォンがはやり、無料のゲームアプリが出回ったからです。スマートフォンでもWiiのように直感的に遊べる。となると、わざわざ高いWiiを買う必要がない。

任天堂はスマートフォンゲームへの参入が遅れ、業績が低迷した……といったところでしょうか。

でも、考えてみてください。何度も書いていますが、ブルー・オーシャン戦略は、新市場の開拓にしか役に立ちません。参入を防いだり、競争優位性を維持するには、別のマーケティング戦略が必要になります。

任天堂の業績が低迷したからといって、ブルー・オーシャン戦略が悪いわけではないのです。「ブルー・オーシャン戦略は役に立たない」という批判をしている人は、ブルー・オーシャン戦略が、「参入も防げる万能の戦略」だと思っているのかもしれないですね。

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4.ブルー・オーシャンだけでは不十分

『ブルー・オーシャン戦略』の第9章には、ブルー・オーシャンを開拓し続けると同時に、参入を防いだり、競争優位性を維持したりすること(=レッドオーシャンで競争すること)の大事さが書いてあります。

わかりますか? ブルー・オーシャンを見つけるのとレッドオーシャンで競争するのは、右の車輪と左の車輪のようなものなのです。どちらか片方だけでは、ビジネスは成功し続けられません。

ブルー・オーシャン戦略だけでなく、ぜひ他のマーケティング戦略も学んでくださいね。これは私からのお願いです。ブルー・オーシャン戦略だけでは、足りないのです。

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