苫米地英人(とまべち・ひでと)氏とは、洗脳についてくわしい認知科学者です。オウム真理教の事件では脱洗脳に関わったとされています。また、200冊以上の本を書き、参加費が数百万円もする高額な自己啓発セミナーを開催していることで知られています。
さて、Yahoo!知恵袋などで「苫米地英人」と検索すると、胡散臭いと思っている人も多いようです。その理由は、「聞くだけで彼女ができる」とか「聞くだけで巨乳になる」、「聞くだけでIQが上がる」といった胡散臭い音源を開発しているからでしょう。
私は心理学の専門家ですが、この記事を書く前に苫米地英人氏の本をかなり読みこみました。その上で、彼の理論が心理学的に正しいか、考察をしました。また、私のひとりよがりな意見にならないよう、できるかぎりデータを用いて客観性を担保しましたので、ご安心ください。
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ビジネス心理学とは?目次 〜胡散臭いといわれる苫米地英人の真実〜
- 5-1.抽象度……抽象さの度合いのこと
- 5-2.臨場感……実感のこと
- 5-3.ゲシュタルト……一つにまとめることで生まれる意味
- 5-4.ホメオスタシス……体を一定に保つサーモスタット
- 5-5.ビジョン……目標を達成したときのイメージ
- 5-6.ドリームキラー……目標達成をジャマする人
- 5-7.スコトーマ……心理的な盲点のこと
- 5-8.コンフォートゾーン……居心地がよい領域
- 5-9.エフィカシー……「自分はできる」という感覚
- 5-10.セルフエスティーム……ありのままを認める感覚
- 5-11.RAS……好きなものを発見するセンサー
- 5-12.ハビット……無意識の習慣やクセ
- 5-13.アティテュード……無意識の判断
- 5-14.アファメーション……自分への肯定的な言葉
- 5-15.ブリーフシステム……信念、思い込みのこと
1.苫米地英人氏とは?
苫米地英人氏は、認知科学という、心理学や人工知能、哲学などを含んだ学問の研究者です。本人のプロフィールによると、カーネギー大学の博士(Ph.D)でもあるようです。
氏が有名になったきっかけは、1990年代後半のオウム真理教の事件です。苫米地英人氏は、オウム真理教に洗脳された信者の脱洗脳に成功したとされ、テレビなどのメディアで取り上げられました。
著者としての経歴は2000年2月以降。『洗脳原論』という本が、苫米地英人氏にとっての処女作です。私も当時この本を読みましたが、非常に良書だと感じました(そして、氏の最高傑作でもあると思います)。
その後、洗脳関係の本を年1冊くらいのペースで出版したあと、2007年頃から怒涛のごとく出版をし始めます(年間数十冊のペ−スで出版されているので、たぶん本人が書いているのではなく、大部分をライターが書いていると思われます)。
また、そのジャンルも多種多様。洗脳だけではなく、英語の勉強法、宗教、スピリチュアル、気功、自己啓発、政治経済、営業、論理思考、健康法、歴史……と、とにかく多岐にわたります。おそらく、このせいで、何の専門家なのか分からないという印象を持っている方が多いのではないでしょうか。
そして、同時に、この2007年頃から、高額な教材やセミナーを売り始めます。教材というのは、氏の話しているCDやDVDを何本かセットにしたもので、5〜10万円くらいの価格のものが多いです。中には、見るだけでTOEICの点数が上がるという、私には信じられない英語の教材もあります(笑)。
また、セミナーはもっと高額。教材の10倍くらいの価格です。数日間のセミナーで50万円なんてものはザラで、300万円近いものもあります。このあたりが、胡散臭いと感じる人が多い理由ではないでしょうか。
※苫米地英人氏の公式サイトに行くと、だいたいのセミナーの参加費が分かると思います。
ご参考:苫米地英人 公式サイト
2.苫米地英人氏から学んで役に立つの?
では、苫米地英人氏から学んで役に立つのでしょうか? あるいは、役に立たないのでしょうか?
この章では、苫米地英人氏の本や教材、セミナーの特徴をふまえて、「どういう人が学ぶとよくて、どういう人は学ばない方がよいのか」を解説します。
なお、この章については、大部分が私の意見であることを、あらかじめお伝えしておきます。
2-1.苫米地英人氏から学ぶといい人
苫米地英人氏から学ぶといい人は、結論から申し上げると、NLPやエリクソニアン催眠の専門家です。
私は心理学の専門家ですが、苫米地英人氏の言葉づかいや、ボディーランゲージを見るかぎり、氏のバックボーンにはNLPやエリクソニアン催眠と呼ばれる心理学があることがわかります。
なお、NLPについてくわしく知りたい方は、私が過去に記事に書いたので、ぜひ読んでみてください。苫米地英人氏のバックボーンはもちろんのこと、NLPの歴史などがわかると思います。
たとえば、氏の著作、『心の操縦術』を読むと、テクニックの名前こそ出していませんが、NLPのテクニックである「チャンキング」や「アンカーリング」などが載っています。
ただ、氏はそのことをあまり公言していません。それは、おそらく商売上の理由であると思われます。NLPやエリクソニアン催眠のテクニックだと言うよりも、自分オリジナルのテクニックだとうたった方が、自分の教材やセミナーが売れやすいからでしょう。
もちろん、そのテクニックには苫米地英人氏のオリジナルの部分もあるでしょうが、NLPや催眠の先達がいなければ、あのレベルまでは行けなかったのは間違いありません。
ですから、すでに、NLPやエリクソニアン催眠の知識がある人にとっては、自分の教材やセミナーを売るための方法として、良いお手本になると思います。おそらく、年間数億円はセミナーで稼いでいると思いますので。
私の周りだと、NLPや催眠を学んでいる人の多くが、ほとんどお金を稼げていません。その理由のひとつは、教えていることにオリジナル性がないからです。そのオリジナル性を作るという点で、氏は日本では群を抜いていると感じます。
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ビジネス心理学とは?2-2.苫米地英人氏から学んでも時間がムダになる人
逆に、苫米地英人氏から学んでも時間がムダになる人は、NLPやエリクソニアン催眠の初心者です。最低でもこの分野の本を30冊は読んでいなければ、「まだ早い」と言えます。
つまり、心理学にくわしくなるまでは学ばないほうがいい、ということです。氏のツイッターやyoutubeなどでの発言も、心理学を熟知してから聞くことをおすすめします。
苫米地英人氏は、洗脳の専門家ですから、あなたを洗脳することはたやすいこと。これはあくまで私の意見ですが、氏の100万円以上するセミナーに参加する人の中には、洗脳されてしまっている人もいるはずです。常識で考えれば、そこまで高額のセミナーにお金を払うのは、人生を賭ける覚悟がいるはずだからです。
※実は私も、都内の某高級ホテルのラウンジで、たまたま偶然、氏と会ったことがあります。そのときの話は後述しますが、苫米地英人氏はとてもコミュニケーションが巧妙な方という印象でした。
もし、あなたが人生を変えたいとしても、苫米地英人氏以外に、もっと良いお手本になる人がいるはずです。私はコンサルタントですが、クライアントに対して、「(苫米地英人氏に限らず、)教材やセミナーにお金を払う前に、お客様の声を見て、どういう声が多いかチェックしましょう」と言っています。それは、どういうお客様の声が多いかで、どういう結果が得られる確率が高いのか分かるからです。
「年収が上がりました」という声がたくさん載っていれば、年収が上がる可能性は高いでしょうし、「結婚できました」という声がたくさん載っていれば、結婚できる可能性は高いでしょう。
ただ、苫米地英人氏の教材やセミナーの販売ページを見ても、お客様の声が載っている商品は本当に少ないのです。載っていない場合、本当に結果が出せるのか、そして、どういう結果が出せる確率が高いのか分かりませんので、おすすめできません。
※お客様の声も、お金を払えば買えてしまうことは覚えておきましょう。お客様の声のねつ造までされてしまうとどうしようもありません。こればかりは、販売者の良心に委ねるしかないでしょう。
3.苫米地英人氏の本やセミナー、DVD教材の真実
ここでは、私や私の友人の実体験から、苫米地英人氏の本やセミナー、DVD教材についてお伝えします。
ただ、氏はかなりの数の本やセミナー、教材を出しており、その全てに対しての感想を書くことは紙面の関係で不可能です。
いくつか、代表的な本やセミナーを取り上げて説明しますが、その説明が氏の全ての商品に共通して言えるわけではないことはご寛恕ください。
3-1.苫米地英人氏の本(おすすめなど)
前述したとおり、氏は200冊以上の本を出しています。私もその中で何冊か買った本もありますし、書店でパラパラっと立ち読みした本もあります。
氏の本の感想を申し上げると、2006年以前の本はわりと良書が多い印象です。2006年以前の本のタイトルを調べるには、Amazonに行き、「苫米地英人」と検索し、検索結果を「出版年月が古い順番」に並び替えれば一発でわかります。
なかでも、良書と言えるのは『洗脳原論』で、洗脳や脱洗脳についての知識が書かれており、心理学の専門家には垂涎の1冊と言えるでしょう(とはいえ、この本の内容は非常に難しいため、心理学の専門家でないと理解するのは不可能でしょう)。
『洗脳原論』
苫米地 英人(著)
なぜ、2006年以前の本に良書が多いかというと、氏の専門分野である洗脳をテーマにした本が多いからです。2007年以降、なぜか自己啓発や英語学習、宗教、スピリチュアルなど、専門外の分野の本を書き始めています。
こうした専門外の分野であれば、その分野の専門家の本を読めばいいのであって、なにも氏の本を読む必要はありません。専門家の本を読んだ方が、あなたにとって、時間もお金も節約になるからです。もちろん、2007年以降の本であっても、洗脳についての本であれば、読んでいただいていいと思います。
これは学習の基本であり、(苫米地英人氏にかぎらず)すべてに言えることですが、その分野の第一人者から学んだ方が学習効果が高いということです。逆に、第一人者以外から学ぶと、学習効果が低くなりますのでご注意を。
ちなみに、どうしても自己啓発の本を読みたい場合、こちらの記事を参考にしてみてください。私が過去に書いた記事ですが、何も知らずに自己啓発本を買ったり、読んだりしても、何も人生が変わらないということを解説しています。
また、この記事を読めば、なぜ苫米地英人氏の本がおすすめではないのかがわかるでしょう。逆に私がおすすめの本6冊もご紹介しています。
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ビジネス心理学とは?3-2.苫米地英人氏のセミナー
これは、セミナーに限ったことではなく、教材や本でも同様ですが、「苫米地英人氏は極端なことを言っている」と私は感じています。
たとえば、氏の数十万円もするセミナーでは、氏がギターをひき、「それを聞いた参加者のIQが高くなる」とうたっているようなものもあります。特殊音源がどうしたとか、色々なことをセールストークで言っていますが、実は私は、その効果をあまり信用していません(笑)。
私は、プロフィールにも書いていますが、MENSAという人口の上位2%のIQを持つ人だけが参加できるグループの日本のメンバーです。ですから、IQというものについては、普通の人よりも深く理解しているつもりです。
アメリカの教育心理学者アーサー・ジェンセンは、1969年にIQの70%は遺伝によって決まるということを調査の結果、主張しました。また、IQを上げるためには勉強をすると良いことも分かっています。
ですから、なぜ勉強もしないで、ギターを聞くだけでIQが高くなるのか私には分かりません。
少し横道にそれますが、「モーツァルトを聞くとIQが高くなる」というようなウワサが1990年代に広まったことがありました。実はこれはウソだったということをご存知ですか? センセーショナルなウワサは早く広まりますが、それがウソだったという研究結果は広まりにくいものです。
ここから考えてみても、苫米地英人氏がひいたギターの音を聞いたところで、IQが高くなるというのは信用できないと考えています。
また、もし仮にIQが高くなったところで社会生活にも大してプラスがないでしょう。
たとえば、ハーバード大学の研究では、仕事の成功とIQはあまり関係がないことがわかっています。同研究では、仕事の成功と関係があるのは、「あたたかな人間関係」を築けていることだそうで、これで成功率に3倍の開きがあることを示しています。
IQが高くなったところで、収入が上がるわけでもないのに、なぜIQを上げる必要があるのでしょうか? ちょっと私には理解できません……。
3-3.苫米地英人氏のDVD教材
苫米地英人氏の教材とは、氏がセミナーで話した動画をDVDにしたものです。あるいは、スタジオなどで吹き込んだ音声をCDにした教材もあるようです。
こうした教材では、氏がNLPや催眠言語を使いこなしている実例を見ることができるので、心理学の専門家からすると、良い研究対象になると思います。自分も同じようなレベルでできるまで、何度も繰り返し見てもいいでしょう。
ただ、前述したとおり、心理学の知識がないのであれば、基本的には見ることはおすすめできません。ましてや、繰り返し見ない方がいいでしょう。
「繰り返し、同じメッセージを脳に送り込む」というのは、典型的な洗脳の手法です。ナチスのアドルフ・ヒトラーは演説で重要な点を何度も繰り返しましたよね? 心理学という鎧を着ていない状態で、何度も繰り返し見るのはやめた方が無難です。
とはいえ、セミナーよりはおすすめできます。「セミナーに何十万円も払ったのに、たった数時間しか苫米地英人氏本人が話してくれなかった……」という参加者の声が、インターネット上にはいくつか載っています。ですからセミナーに比べたら、DVD教材の方が費用対効果は高いと思います。
苫米地英人氏のセミナーの感想は、Yahoo!知恵袋で検索してみるといいでしょう。まずはこの2つのページだけ、読んでみてください。
Yahoo!知恵袋:
「苫米地英人のセミナー受けた事ある方にお聞きしたいのですが、内容はどうでしたか? 」
「彼が自己啓発セミナーへ。苫米地英人さんが主催するセミナーにはまっている彼がいます。 」
4.苫米地英人氏の洗脳テクニック一例
洗脳の専門家である苫米地英人氏の洗脳テクニックには、驚くべきものがあります。
この章の中では、その苫米地英人氏のテクニックの中でも、分かりやすいものを3つご紹介しましょう。これらを知っていれば、最低限の防御はできます。あなたが本を読むときも、この3つだけはかならず意識しておいてください。
4-1.英語や難しい単語で権威性を作る
私たち日本人は、ほとんどの人が英語コンプレックスです(笑)。
お菓子の名前を見ると、ほとんどがアルファベットですよね。ポッキー、プリッツ、ビスコ、ダース、アポロ、マリー……どれも日本のお菓子のはずなのに、全部カタカナです。
あるいは、日本の高級ブランドのモデルは、外国人(とくに白人)がとても多いです。なぜでしょうか? 海外旅行に行くと分かりますが、他の国だと、みんな自国のモデルを使いますよね? なぜ、日本人は自国のモデルを使わないのでしょうか?
このように、私たち日本人はかなり英語コンプレックスなんですよね。ですので、多くの日本人は英語を使う人に対して、崇拝してしまうのです。
苫米地英人氏は、日本人のこうした特徴を利用しています。つまり、英語の専門用語を使って、自分自身への権威性を創りだしています。
苫米地英人氏がよく使う英語の専門用語はいくつかありますが、スコトーマ、コンフォートゾーン、ホメオスタシス、ドリームキラー……などなど、どれも英語です(なお、これらの意味は次の章で解説しています)。
こういった英語の専門用語は、一瞬聞くと「おお、すごそうだな」と思ってしまいますね。これは、私たち日本人が英語コンプレックスだからです。
あるいは、苫米地英人氏が話す理論の中では抽象度とか止観、大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)といった、難しい単語も出てきます。これも同じですね。あえて難しい単語を使うことで、「苫米地英人さん、スゴイ!」という権威性を作るのです。
ですので、こういった難しい専門用語にまどわされないようにしましょう。
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ビジネス心理学とは?4-2.権威を利用して権威になる
苫米地英人氏がよく行う方法として、アインシュタインやモーツァルト、釈迦、キリストなど、過去の有名人を例に出すことがあげられます。こういった権威を借りることで、自分自身も権威になるためです。
私が、都内の高級ホテルで苫米地英人氏と会ったときの事例をご紹介しましょう。その当時、私は、とある本の翻訳にたずさわっていたので、こうあいさつをしました。「はじめまして。苫米地さんですよね? 今、●●という著者の翻訳にたずさわっている相馬と申します」
すると、苫米地英人氏はこのように返事をしてくれました。「はじめまして。ああ、●●さんか。●●さんも、私の師匠である××から学んだ生徒なんだよ」と。
もちろん、こんなにストレートな表現ではありませんでしたが(笑)。私は、こう言われたときに、「ああ、なんてコミュニケーションがうまい人なんだろう。権威者の名前を出して、自分の権威性を上げるなんて」とただ感動しました。
マウンティングの競争をするつもりもなかったので、「ああ、そうなんですね。お互いに頑張りましょう」とだけ言って、私はその場を去りました。
有名人や権威者の名前を出したり、そういった人を批判したりすることで、自分自身の権威を上げるというのは典型的な洗脳のテクニックです。
新興宗教の教祖が、釈迦やキリストの例を出すのも、それと同じ手口です。
4-3.過度な一般化で誘導する
「オーバージェネラリゼーション」と言いますが、過度な一般化をすると、話を誘導することができます。一般化というのは、「ごくまれにしか起きないことを、必ず起きる法則であるかのように話すこと」です。
たとえば、「(1)IQを上げると人生が変わる。そして、(2)そして、この特殊音源を聞くとIQが上がる。だから、この特殊音源を聞きましょう」という具合です。ちょっと待って! それ、本当ですか? 過度な一般化ですよね?
(1)IQが上がったからといって、人生は変わらないですよ。とくに、前述したとおり、仕事の成功とIQは関係がありません。ですので、そこまで劇的に人生が変わるわけではありません。
(2)また、特殊音源を聞けばIQが上がるのかもしれませんが、もっとIQを効果的に上げる方法は他にたくさんあるはずです。
私が入っているMENSAというグループでは、入会テストとして、IQテストを行います。そして、そのIQテストでは、論理性を問われる問題しか出題されませんでした。
※MENSAの試験問題は、このIQテストとほぼ同じような選択式でした。
→ 「IQtest.dk」
このIQテストでIQ130以上なら、MENSAの会員になれる可能性があります。
ここから考えても分かりますが、IQを鍛える最も効果的なトレーニングは、論理思考の練習をすることのはずです。
この場合、「(1)IQを上げると人生が変わる」ということも、「(2)この特殊音源を聞くとIQが上がる」ということも、過度な一般化なのです。「ごくまれにしか起きないことを、必ず起きる法則であるかのように話している」というわけです。
苫米地英人氏はIQが高いはずですから、これくらいの論理思考は簡単にできるはずですが、なぜ過度な一般化をしているのでしょうか。氏のよく使う専門用語を借りて説明するなら、読者にスコトーマを作ってしまっている、ということになります。
5.苫米地英人氏の理論(専門用語)15個の解説
最後に、苫米地英人氏がよく使う理論(専門用語)の説明をしましょう。この章では、氏の書いた自己啓発の本によく出てくる言葉をまとめてみました。
これを知れば、難解に感じられる氏の本でも、言わんとすることが理解できるでしょう。また、苫米地英人氏の本の中にはオーバートークが含まれていますが、それらを見抜くこともできるでしょう。
書いてあることを鵜呑みにして、氏の高額な教材やらセミナーに散財する前に、必ず目を通してください。
5-1.抽象度……抽象さの度合いのこと
たとえば、屋根にクギ打っている人がいたとして、「どうすれば抜けないようにクギが打てるだろうか?」というのは抽象度が低い(=具体的な)質問。「そもそも、クギが必要ない屋根にできないだろうか?」というのは抽象度が高い(=抽象的な)質問。こういった抽象度が高い質問をすれば、そもそも、クギが要らなくなります。
抽象的な思考(抽象度が高い思考)ができれば、具体的な問題は何もしなくても勝手に解決ができる、というわけです。抽象的な思考(抽象度が高い思考)ができる ≒ IQが高い ということです。ただ、抽象度が上がったところで(IQが高くなったところで)、社会的なメリットがないことは前述したとおりですので、お気をつけて。
5-2.臨場感……実感のこと
臨場感というのは、言い換えると実感のことです。あなたはテレビのリモコンを押したら、テレビを操作できますよね? そして、このことは「当たり前じゃないか」という強い実感がありますよね? この実感のことを、苫米地英人氏は臨場感とよんでいます。
この場合、当たり前ですが、テレビのリモコンを押すことに対して、「これを押したら、本当にテレビを操作できるのかな?」という不安がないはずです。
これは自分の目標に対しても同じです。「自分の目標を達成できそうな実感、臨場感」が強ければ、「私、本当に目標を達成できるかな」と不安にならなくて済む、ということです。
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ビジネス心理学とは?5-3.ゲシュタルト……一つにまとめることで生まれる意味
「神」という漢字は、「ネ」と「申」という部分だけに集中していたら、「かみ」と読めません。「ネ」と「申」を含んだ全体を見て、初めて「かみ」と読めますよね。この、「ひとまとめにすることで生まれる意味」のことをゲシュタルトと言います。
そして、大事なことは、人間は同時に1つのゲシュタルト(意味)しか持てないのです。ルビンのツボをご存知ですか? ツボというゲシュタルトが見えているときは人の横顔のゲシュタルトが見えません。逆も同じで、人の横顔のゲシュタルトが見えているときは、ツボのゲシュタルトが見えません。
wikipediaより引用
別の例をあげましょう。私たち日本人は、満月を見たときに、「餅をついているウサギ」のように見えますよね。当たり前ですが、月にはウサギはいません。月のクレーターが作っている影が「餅をついているウサギ」っぽく見せているだけです。このウサギがゲシュタルトです。
もちろん、ゲシュタルトは、人によって、国によって変わります。満月の模様がカニに見える国もあれば、ライオンに見える国もあります。真実は1つですが、ゲシュタルトは無数にあるということですね。
5-4.ホメオスタシス……体を一定に保つサーモスタット
ホメオスタシスとは、日本語で恒常性(こうじょうせい)と言います。と言っても、むずかしいですよね。
簡単に言うと「人間の状態を一定に保つしくみ」のことです。人間の体温は、35℃の真夏でも、0℃の真冬でも、まるでサーモスタットがあるかのように、ほぼ36℃前後に保たれますよね。この「人間の状態を一定に保つしくみ」のことをホメオスタシスと言います。
苫米地英人氏は、このホメオスタシスは人間の「考え」や「心」にも通用すると考えています。
貧乏な人が宝くじにあたっても、数年以内に貧乏に戻ってしまうように。あるいは、アメリカ大統領で不動産王でもあるドナルド・トランプが、一時的に一文無しになったものの、すぐに億万長者に戻ったように。あなたは、あなたのセルフイメージのとおりになる、というわけです。
5-5.ビジョン……目標を達成したときのイメージ
あなたは、目標を達成したあと、自分がどんな状態になるかイメージをしていますか?
水泳選手のマイケル・フェルプスは北京オリンピックで8つのメダルをとりました。彼の目標は「オリンピック史上、もっとも多くのメダルを取る」ということでした。そして、その目標を有言実行しました。
さらに、マイケル・フェルプスは、この目標を達成したときに「オリンピックといったら陸上競技」という社会のイメージを、「“オリンピックといったら水泳競技”というイメージに変えたい」というビジョンがあったそうです。
この目標を達成したら、自分がどうなるのか? 自分の周りはどうなるのか? これがビジョンです。
5-6.ドリームキラー……目標達成をジャマする人
あなたが、「私は将来、会社をやめて、起業する!」という目標を立てたとします。そして、それを公言したときに、応援してくれる人もいれば、「あなたには無理だよ」と頭ごなしに批判してくる人もいます。この批判してくる人のことを、ドリームキラーと苫米地英人氏はよんでいます。
5-7.スコトーマ……心理的な盲点のこと
有名な経営者が「ビジネスで結果を出すためには、3つのポイントがあります」と言っていたとします。すると私たちは、おのずと、その3つに集中してしまいますよね。
でも、それって、本当ですか? 実際には、他にも重要なポイントがあるかもしれないですよね。このように、何かに対して意識が集中しているときは、それ以外のものが心理的に見えなくなります。この心理的な盲点のことをスコトーマとよんでいます。
逆に言うと、相手を操りたいときは、操りたい方向へ相手の意識を集中させれば、それ以外のものへのスコトーマを生み出すことができます。
5-8.コンフォートゾーン……居心地がよい領域
コンフォートゾーンとは、自分にとって、精神的に居心地の良い(=コンフォート)領域(=ゾーン)のことです。
ずっと会社員で起業をしたことがない人にとっては、その会社が居心地の良い領域になっているでしょう。この場合、起業をするためには、コンフォートゾーンから出ないといけません。
苫米地英人氏は、コンフォートゾーンの外(=居心地が悪い場所)ではIQが下がると言っていますが、人間のIQというものはそんなに簡単にガクンと下がるものではないですし、たとえ下がったとしても、デメリットはほとんどないと思います。
コンフォートゾーンについてくわしく知りたい方は以下の記事をお読みください。こちらの記事ではコンフォートゾーンと何なのか、コンフォートゾーンを変える2つの方法、ラーニングゾーンとパニックゾーンとは何かなどを非常にくわしく解説しています。
5-9.エフィカシー……「自分はできる」という感覚
心理学用語のセルフ・エフィカシー(Self Efficacy)のことを、氏は自分のオリジナル用語っぽく、エフィカシーと言っています(笑)。セルフ・エフィカシーとは、「自分はできる」という感覚のことで、日本語では自己効力感と訳されます。
心理学の観点からすると、「自分はできる」という感覚を高めるために最も有用な方法は、「コツコツと小さな達成体験を積むこと」です。
未来を明確にイメージしたり、「自分はできる」と言ってみたりしたところで、達成体験以上の効果はありません。エフィカシーはあまり上がらないのです。ただ、氏はその点についてはあまり言及していないように感じます。情報を話さないことで、読者にスコトーマを作り出していると言えます。
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ビジネス心理学とは?5-10.セルフエスティーム……ありのままを認める感覚
和訳すると「自己肯定感」のこと。私は、ありのままでいい、無条件に価値がある、という感覚です。
これが低い人は「〜なときだけ」という条件付きで自分の価値を感じています。「結果を出したときだけ、私は価値がある」とか「肌がきれいなときだけ、私は美しい」など。セルフエスティームが低いと、質の低い人生になります。
エフィカシーとの違いは、エフィカシーは「自分は●●を達成できる」という、能力への自信であり、セルフエスティームは「自分は無条件で愛される」という自分自身の価値への自信です。
5-11.RAS……好きなものを発見するセンサー
網様体賦活系(もうようたいふかつけい)のことを英語でRASと言います。
たとえば、あなたがベンツを欲しいな、と思ったとします。すると、急に街中を走っているベンツが増えませんか? これはもちろん、実際に増えているわけではなく、あなたのセンサーが敏感になっただけです。
この、自分にとって都合がよい情報だけを発見するセンサーが、RASです。RASが働くと、自分の目標を達成するのに必要な情報が頭に入るようになります。
少し前に大ブームになった「引き寄せの法則」の正体の一つがこのRASですね。「引き寄せの法則」については以下の記事でくわしく説明していますので、ぜひ読んでみてください。この記事を読めば、引き寄せの法則が全くのでたらめなことがわかるでしょう(引き寄せの法則の種明かしについては、この記事の2章にえげつなく書いてあります)。
5-12.ハビット……無意識の習慣やクセ
ハビットとは、直訳すれば分かるとおり、習慣のこと。ただ、苫米地英人氏は、習慣だけではなく、日常のクセも含めて無意識にやっている全てのことをハビットと言っているようです。
ただ、辞書で調べればわかるとおり、habitにはクセという意味もあります。あえて、英語にすることで権威性を出しているものと思われます。
5-13.アティテュード……無意識の判断
ハビットは無意識のクセを表しますが、アティテュードは無意識の判断のこと。もし、降水確率が50%なら、あなたは傘を持っていきますか? おそらく、多くの人は、この質問に対して、無意識に判断をしているはずです。この質問に対する答えがYESであろうと、NOであろうと、その判断そのものがアティテュードです。
5-14.アファメーション……自分への肯定的な言葉
心理学の世界では「私はできる」とか「私は認められる」というように、自分を肯定する言葉のことをアファメーションと言っています。ただし、苫米地英人氏は、アファメーションには全部で11のルールが必要だと言っています。
この11のルールについては、彼の頭の中で考えただけのように感じます。すなわち、その11のルールがあった場合と、なかった場合で目標達成率が何%違ったのか、データをとって検証しているようには思えません。少なくとも、私が目を通した本の中では、詳細な実験データが書かれている本はありませんでした。
「データが王様」という科学的な視点からすると、氏の提唱するアファメーションのルールは、やや科学性にかけるという感があります。なお、彼が提唱するアファメーションの11のルールについては、こちらの本がくわしいです。
『コンフォートゾーンの作り方【聴くだけで目標達成できる!CD付】~図解TPIEプログラム~』
苫米地英人(著)
5-15.ブリーフシステム……信念、思い込みのこと
たとえば、あなたにとって、お金とは汚いものですか? それとも、綺麗なものですか? 商品を売買する手段? いずれにせよ、「お金とは何か?」という、その人の思い込みがブリーフシステムです。
真実は、お金はお金であり、それ以上でも、それ以下でもありません。が、そのお金に対して、私たちは色メガネで見ていますよね。その色メガネのことをブリーフシステムというわけです。
たとえば、「お金とは豊かさを与えてくれるもの」と思っている人は、お金を稼げる可能性が高くなるかもしれません。一方で、「お金とは問題を引き起こすもの」と思っている人は、それがブレーキになって、いつまで経っても収入が上がらないかもしれません。
あなたがお金に対して持っているイメージ、すなわちブリーフシステムが、収入を決めてしまう可能性があるということです。
このブリーフ、beliefをそのままカタカナ語にしているわけですが、なぜかビリーフではなく、ブリーフと苫米地英人氏は発音しています。これはおそらく、NLPや催眠などの心理学と差別化して、オリジナルの心理学っぽく見せるためでしょうね。
6.苫米地英人氏は学び方次第
苫米地英人氏は、好き嫌いがハッキリする人物だと思います。私は、心理学の知識がない人にはおすすめしません。
認知科学や認知心理学の内容を、自己啓発業界に広めた先駆者であることは間違いありませんが、ところどころに過度な一般化が感じられるので、胡散臭いと感じる部分も多いと思います。
本はまだしも、教材やセミナーにお金を払うときは、「お客様の声」があるか、しっかりとチェックしましょうね。これだけは、私からのお願いです。