テレビをつけると、たまに見かける脳科学者。あるいは、書店の自己啓発の棚に行くと並ぶ「脳科学」をうたった本。さて、脳科学は本当に教育や恋愛に役立つのでしょうか?
この記事では、「脳科学とはなにか?」「どういうときに役に立って、どういうときに役に立たないのか?」「テレビや本で有名な、あの脳科学の専門家って、ぶっちゃけ、どうなの?」といった、いろいろな疑問に対する答えを用意しています。
脳科学というと「ムズカシソウ……」と感じるかもしれませんが、とても簡単に説明していますので、楽しんでお読みください。
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ビジネス心理学とは?目次 〜脳科学とは? 教育や恋愛に役立つのか?〜
1.脳科学とはなにか? 疑似科学なのか?
脳科学とはなにか? この質問には2通りの答えがあります。「大学などで研究されている脳科学」は「神経科学」であると言えます。ですが、「世間一般の人が知っている脳科学」は、「疑似科学」です(笑)。
まず、神経科学とはなにか? あなたは、ドーパミンとかシナプスという言葉を聞いたことがありませんか? 神経科学とはそういった神経細胞の仕組みなどを研究している学問です。
では、なぜ、「世間一般の人が知っている脳科学」は、「ただの疑似科学」なのでしょうか? それは、脳科学というスゴそうな名前が持つ権威性を使って、トンデモ理論をふりかざしてビジネスをする人がいるからです。
また、脳科学と言っても、道徳的な点から、生きている人間の脳を解剖して調べるわけにはいきません。ラットなどの動物を使ったり、fMRIとよばれる脳スキャンをしたりして、研究しているのが実際のところです。
ですから、どうしても仮説になってしまう部分もあるのです。仮説とは、「ラットの脳はこうだったから、人間の脳もこうだろう」という推測(つまり、意見)の理論です。
もちろん、推測は大いに結構なのですが、検証できないと科学性がうしなわれます。
検証していない理論(意見)の上に理論をどんどん積み重ねてしまうと、科学者たちから「これは科学ではない。意見の積み重ねだ」と思われてしまう、ということですね。
2.テレビで有名なあの脳科学者の真相
テレビをつけると、脳科学者という肩書で色々な人が登場しています。モジャモジャ頭でおなじみの茂木健一郎さん、IQ世界トップ2%の頭脳をもつ中野信子さん、多くの論文を書かれている澤口俊之さんなど……
彼らは、研究者としてではなく、文化人枠のタレントとして、テレビに出ているのだろうな、と私は感じています。クイズ番組で知識量をためすとかは、脳科学とまったく関係ないですからね。
それから、茂木健一郎さんは2009年に4億円を脱税したりしましたから、研究者たちからは、「あのモジャモジャ頭、稼いでいるな!」と嫉妬をされているのかもしれません。あっ、これはあくまで私の推測(意見)であって、検証はしていませんので、お許しください(笑)。
彼らが、どんな論文を出したのかは、パブメドという世界最大の学術文献の検索サイトで探すことができます。詳しく知りたい場合は、そちらで調べてみてください。このお三方については、私が検索しておきました。
茂木健一郎さん:論文182件(2015年9月8日現在)
中野信子さん:論文367件(2015年9月8日現在)
澤口俊之さん:論文170件(2015年9月8日現在)
ただし、オウム真理教の脱洗脳で有名になった苫米地英人(とまべち・ひでと)さんだけは論文の該当が0件でした。
この人だけは、論文を1つも出していない科学者ということになり、とても怪しく感じます。この現状では、少なくとも大学の研究者たちは、苫米地英人さんのことは、研究者として認めていないでしょう。
なお、苫米地英人さんについては、私が別の記事でまとめてあります。氏のセミナーは100万円を超えるものもあり、内容を精査しないまま受講してしまうと危険です。苫米地氏についてくわしく知っておきたい方は、ぜひご一読ください。
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ビジネス心理学とは?3.男性脳・女性脳と脳科学
男性と女性で脳の作り方違うということは、あなたもお気づきだと思います。実際に、男性の脳と女性の脳では、いくつかの違いがあることが分かっています。
ただ、こうした男性脳と女性脳の違いについては、脳科学より、心理学の方がわかりやすく、研究の数も多いです。
たとえば、脳科学者は、脳をスキャンしたりして、「男性脳は知覚と運動の、女性脳は分析と直観の、脳領域結合性が高い」というような結論をだします。ちょっとムズカシイですよね(笑)。
これに対して、心理学者は、男性と女性の被験者をあつめて実験します。そして、男性はニュースが好きな人が多く、女性はバラエティが好きな人が多いという結論をだす。これが、実験心理学的なアプローチです。
つまり、心理学の方が実験がカンタンで、被験者が多いので、実験からもたされた結論が正しい確率が高い、ということです。
ですので、私としては、男性脳や女性脳について知りたければ、心理学のデータから学んだ方がいい、と考えています。
男性脳と女性脳については、色々な本あるのですが、おすすめとしては次の2冊です。どちらも恋愛や夫婦関係で悩んでいる人にピッタリの内容です。
『ベスト・パートナーになるために―男と女が知っておくべき「分かち愛」のルール 男は火星から、女は金星からやってきた (知的生きかた文庫)』
ジョン グレイ(著), 大島 渚 (翻訳)
『LOVE BRAIN―行為を紡ぐ男性脳 言葉を紡ぐ女性脳』
黒川 伊保子(著)
前者は、男性の心理学者が書いたノウハウ本。一方で、後者は人工知能の専門家の女性が書いたエッセイ本といったところです。まずは、内容がカンタンなので前者から読んでみてください。
4.右脳=女性、左脳=男性は真実とは正反対
よく言われる、「右脳は感覚、左脳は理屈」とか「右脳は女性、左脳は男性」という理論は、今日かぎりでスッパリ忘れていただいてかまいません。
なぜなら、これらは科学のデータからは完全にかけ離れているウソだからです(笑)。もちろん、「右脳度・左脳度テスト」みたいな診断は、真っ赤なウソです。
そもそも、学術用語では右脳・左脳とは言わず、右半球・左半球と言います。右脳・左脳という言葉を使っている時点で、疑似科学だと思って頂いてかまいません。
たとえば、芸術活動をしているときでも、人間の脳は左半球も活動することがわかっています。感覚的な活動であっても、右半球だけでできないのです。
また、男女の違いについては、「右脳は女性、左脳は男性」とは正反対であることがわかっています。これは、発達心理学者のサイモン・バロン=コーエンのデータです。
男性は右半球が早くから発達するので分析が得意になり、女性は左半球が早くから発達するのでコミュニケーションが得意になるのです。真実は「男性は右半球が、女性は左半球が早くから発達する」ということです。
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ビジネス心理学とは?5.脳トレーニングはかなりウソに近い
以前、脳を鍛えるゲームが大ヒットになりました。残念ながら、この脳トレーニング、かなりウソに近いです。
東大の脳科学(神経科学)の教授、池谷裕二さんは、「脳トレーニングなどをしてもほとんど変化がないだろう」と言っています。
それは、変化と活性化は別モノだからです。私も経験がありますが、脳トレーニングなどのゲームをすると、たしかに脳を使っている感覚があります。脳は活性化しているのは間違いないでしょう。
では、そのまま活性化されつづけ、それが維持され、脳は変化するのか? 答えはノーです。しばらく時間がたてば、活性化された脳は元にもどるのです。つまり、活性化は一時的ということですね。
また、私は脳トレーニングを効率が悪いと考えます。目標を明確にできれば、もっと効率的な手段があることに気づけるからです。つまり、収入を上げたいならビジネスや投資の勉強をすればいいし、マラソンを完走したいならジョギングをした方が早道だからです。何も脳トレーニングをする必要はない。
あなたも、自分の目標にあったスキルを身につけた方が、あなたの望む人生に早く近づくと思いませんか?
6.脳科学でおすすめの本 3選
脳科学に関する本で、悪書を買わないコツは「脳科学を使って90日で人生を変えよう」というような自己啓発の本を買わないことです。
なぜかというと、大学で研究している脳科学者(神経学者)というのは、そういった自己啓発のために研究をしているわけではないからです。
なお、自己啓発本を血肉にするための読み方については、下記の記事を参考にしてください。この記事に書いた、1%の有益な本と、99%の無駄な本を見分けるコツなどを知らないと、いくら本を読んでも、まったく人生が変わらないでしょう。
なお、脳科学をうたった自己啓発本を読むくらいなら、この記事で説明した3冊の自己啓発本をまず読んでみてください。3冊共に名著と太鼓判を押しています!
それでは、脳科学について、おすすめの3冊、目的別でご紹介しましょう。
脳科学を使って、学習効率を上げたい方へ
『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』
池谷 裕二(著)
前述した東大の池谷裕二教授が、脳科学を使ってどうやって効率的に学べばいいかを説明した本です。この本に限らず、池谷裕二さんの本はとても分かりやすい上に、知的興奮を与えてくれます。ぜひ、色々と手にとってお読みください。
人間の脳の奥深さに感動したい方へ
『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき』
ジル・ボルト テイラー(著)
ハーバード大の脳神経科学の専門家、ジル・ボルト・テイラーが、37歳で脳卒中に倒れ、そこから8年かけて快復していくまでに体験した気付きが書かれています。脳がどのようにして壊れていくのか、そしてどのようにして快復していくのかを専門家が実体験とともに解説するのは、驚きと感動があります。
子ども(特に男の子)の教育に悩んでいる方へ
『男の子って、どうしてこうなの?―まっとうに育つ九つのポイント』
スティーヴ・ビダルフ(著)
スティーヴ・ビダルフという心理学者が書いた、「男の子と女の子の脳の違い」に関する本。とくに、男の子の子育てで悩んでいる主婦に手にとってもらいたい1冊です。
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ビジネス心理学とは?7.脳科学は大学で学べるの? 卒業後は?
「脳科学は大学で学べるか?」という問いへの答えはノーと言えるでしょう。大学で脳科学を教えているところは少なく、ほとんどが大学院でした。これは脳科学はまだまだ発展途上の分野であり、しっかりとした理論がまとめられていないためだと思われます。
また、大学院であっても、教えてもらうというよりは、データを取りながら研究をおこなう、という状態のようです。ですので、手っ取り早く学びたいという場合は、前章でお伝えしたような脳科学の本を読むのがいいでしょう。
脳科学を学べる学部については、複数あります。山を登るにも複数のルートがあるのと同じで、脳を研究するにも複数のルートがあるのです。大学院によっては、医学部や心理学部の他にも、工学部も脳科学を研究できるようです。脳波を計る機械や人工知能は工学部の領域ですね。
また、卒業後の就職先については、ぜひ大学のOBやOGなどに質問をしてみてください。その年によって就職率などは変わるため、最新の情報を手に入れるためには生のインタビューがおすすめです。
8.脳科学をうたったセミナーにだまされるな!
脳科学というのは最先端の学問なのですが、その権威性を利用して、ひと儲けしようと考えている人達がいます。脳波を測定する機械や、“脳”力をアップする装置などを高額で売っている会社もあります。
また、高額な起業セミナーや自己啓発セミナーにも気をつけましょう。なかには起業セミナーや自己啓発セミナーに参加し続けて、自己破産をした人までいます。くわしくは下記の記事を読んで、事実を知ってもらいたいと思います。
基本的に「最先端の脳科学を教えます」と言っているような人がいたとしたら、その人の話はウソの可能性がきわめて高いです。
脳科学というのは発展途上の分野であり、これを研究するためには、大学院などでないと不可能です。研究者でもないのに、セミナー講師が最先端の脳科学を知りえるわけがありません。
9.脳科学はまだまだ未知の領域
長らく、うつ病はセロトニンという神経伝達物質の不足によっておきる病気だと、脳科学では信じられてきました。セロトニンを増やす薬を服用すると、1〜2週間後に改善するからです。
しかし、この定説はくつがえりつつあります。なぜなら、薬を飲んで1〜2週間もしないと効果がないなんて、効き目がおそすぎるからです。
そのため、定説がかわりつつあります。少しむずかしい話になりますが、うつ病の原因は、神経伝達物質を受け取るレセプター(受容体)の突起の部分が短いからではないか、という説です。そして、その突起を長くするのがセロトニンなのではないか、と。
このように、定説がここ数十年は安定している心理学とちがって、脳科学は定説がコロコロ変わります。ですので、個人的には、研究者になるのでなければ、心理学を学んだ方がいいでしょう。心理学の方が実用的だからです。
脳科学は、まだまだ未知の領域なのです。